イスラエル

イスラエル


表題を見れば、もちろんイスラエルに関する内容が書かれているのであろうという予測はできますが、「はじめに」を読んでもイスラエルの何を論じたいのかは今一つ分かりません。読み終えてから考えると、要するにイスラエルの近現代史を紹介した本のようです。

イスラエルは周辺のアラブ諸国との関係が悪く、たびたび国際問題が話題になるために、日本との関わりが少ない割りには知名度が高い国です。しかし「イスラエル」という国名は知っていても、その国情を詳しく知る人は少ないと思います。私もこの国は第二次世界大戦のホロコーストから逃れた人々が建てた国だろう、と思っていましたが、それが明確に間違いであることを本書で知りました。

考えてみればイスラエル建国の契機としてはイギリスの三枚舌外交というものを学校教育で習った記憶がありますが、あれは第一次大戦での話です。ホロコーストは第二次大戦ですから明らかに時間的に矛盾しますので、ホロコーストが建国の契機となるはずがないのです。そんな単純なこともあまり深く考えたことがなかったが故に疑いもしていませんでした。

また、本書では明確には定義付けされていませんが、「ユダヤ人」というのはどうやら民族ではなく、ユダヤ教徒のことを指しているようです。つまり血筋は日本人であっても、ユダヤ教に改宗すればユダヤ人となれるようです。ただし、事はそんなに単純ではなく、ユダヤ教にも他宗教と同じようにさまざまな宗派があり、政府公認の宗派でなければならないようです。この政府公認宗派のことを本書では「正統派」と呼んでいます。もちろん、どの宗派も自分たちを正統だと信じているでしょうから「正統派」という宗派名は多分にイデオロギー的なので、もっと客観的な呼称があってもよさそうですが、どうやら「正統派」という呼称を用いるのが大勢であるようです。しかし「正統派」の中にも超正統派だとか新正統派だとかがあるらしく、何をもって「正統」とするのか、外部の人間にはなかなか分かりづらいものがあります。

また、「ユダヤ人」をユダヤ教徒と定義してもなお、イスラエル国民は全てがユダヤ人であるわけではないそうです。パレスチナ難民の話題をよく耳にしますので、パレスチナ人は皆ユダヤ人に追放されて難民化したのだと思っていましたが、実はイスラエル国民の2割はイスラエル国籍を持つパレスチナ人だそうです。ここで「パレスチナ人」という言葉を使いましたが、本書によれば実は民族としての「パレスチナ人」というのは存在せず、血筋としては彼らはアラブ人だそうで、「パレスチナに住むアラブ人」のことを「パレスチナ人」と呼ぶそうです。

「ユダヤ人」や「パレスチナ人」などの言葉の定義については私は予備知識を持っていなかったので読みながらちょっと驚いたのですが、ただこのような言葉の定義はその使用者の政治的立場によって左右されそうな感じがしますので、本書の記載を鵜呑みにしてもよいのかどうかはやや半信半疑です。

また、イスラエルは周辺アラブ国家に対する強硬姿勢で知られますが、かつてPLOのアラファト議長とオスロ合意を締結したイツハク・ラビンのような和平派の人々も一定の割合で存在しているそうです。このあたりは、「敵と戦わないものは非国民」などとして思想統制を実施したかつての日本とは違って、イスラエル国内での思想の自由は守られているようです。

本書はイスラエルの実情を淡々と記しており、イスラエルの中東での行動を肯定も否定もしていません。というのも、本書ではイスラエル国内の多様性というものを強調しており、ユダヤ人の中にはイスラエルの国策に賛成の人もいれば反対の人もいるし、賛成の人にはそれなりの背景があり、反対の人も必ずしも人道的な理由で反対している人ばかりではなく利害関係で反対している人もいる、といった具合で、イスラエルを非難/支持することは全てのユダヤ人を否定/肯定することに繋がってしまいますが、そうではなくていろんな人がいるのだ、ということを繰り返し述べています。これはある意味では健全なことで、私は周辺をアラブに囲まれたイスラエルは国家的危機を逆手に取って国内を強硬論で固めてしまっているのだろうと思っていましたが、そのあたりにはかなり自由が認められているようです。利害によって和平を望むということも当然ありえることで、全ての人に高潔な理想を求めるよりもむしろ、和平がみんなの得になるのだ、という状況を作ることの方が現実的です。もっと多くの人が和平によって利益を得られればよいと思いますし、それをカネ目当ての和平だ、などと非難する必要もないでしょう。カネを汚いものだと考えるのは世界に普遍的な思想ではなく、日本を含めて一部にのみ通じる考え方です。古代より商業の民として生きてきたユダヤ人は我々よりもはるかにカネに対して肯定的な考え方を持っているでしょうから、そのあたりは返って説得しやすいかもしれません。

パレスチナ問題は極めて単純化してしまえば、要するに既得権の再分配問題ですが、これは人類の歴史上もっとも解決困難な問題です。さすがにこれを解決する妙案は私には分かりません。無責任ではありますが、何らかの形でできるだけ速やかに和解が成立することを期待する、といった程度のことしか言えません。が、近いうちに解決しそうな兆しも見えませんので、この問題はまだしばらくは人類を悩ませつづけることになるでしょう。

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